ヒカクユウイ〜どんな人もonly one〜
数秒間じっと考え込み、そしてポツンと言いました。
「ヒカクユウイの考え方・・かな。僕が心掛けているのは。」
ヒカクユウイ・・
聞いたことがあるような、ないような言葉の響きに私たちは、顔を見合わせました。
もう20年以上も前の社会人一年生の頃のお話です。
新入社員の私たちに対する研修の一つに、先輩社員に自由に質問をして、
社会人としての心構えを学ぶ、というカリキュラムがありました。
おしゃべりな人、無口な人、とさまざまな先輩社員と話が出来ましたが、
あるちょっと気難しそうな先輩に、私の同期の新人社員が聞きました。
「〇〇さんが、社会人として一番心掛けていることはなんですか?」
私はその先輩社員の雰囲気から
「時間を守ること」とか「言われたことをきっちりこなす」という
まあ一般的で無難な回答が返ってくると予想していました。
ところが先輩社員から返ってきた回答が冒頭の言葉、
「ヒカクユウイ」
です。
「比較優位」
経済学者デヴィット・リカードが提唱した貿易理論の概念です。
専門的な経済概念理論であり、
私ごときの人間がとても詳しい説明はできないのですが、
概念をざっくりと例でお話しします。
ここに、とても腕が良いお医者さんがいます。
そして、このお医者さんは掃除もとても得意です。
さて、このお医者さんに病室の掃除をさせることは、
適切か、適切ではないか。
比較優位の考え方では「適切ではない」ということとなります。
(まあ常識的に考えてもそうなるのですが)
なぜなら、高給であるお医者さんに掃除をさせるとなると、
掃除に費やす単価(時間)費用がとても割高になってしまうからです。
お掃除の専門職の方に任せれば、一時間千円ですむものが、
お医者さんに掃除をさせると、数千円のコストとなってしまう、という
考え方が「比較優位」の考え方です。
私なりにこの考えを発展させますと、
医者の方と掃除専門職の方とで、どちらの仕事が
優れている、という考え方は成り立ちません。
お医者は、医療も掃除も出来るが、
掃除専門職の方は掃除しか出来ない。
よってお医者の方が優れている、
ということは、ならないからです。
比較優位の考え方では、それぞれの人が、
自分の得意分野の仕事を行うこと
が全体最適になります。
どんな人間も必要とされていて、
かけがえのない存在なのです。
今から思いますと、社会人一年生の私たちと年齢が近く、
当時はまだ雑用中心の仕事をしていた先輩は、
自らがしている仕事の価値に疑問を持つ日々だったの
でしょう。
そんな中で「比較優位」という考え方で「理論的に」
自らの仕事の価値の意味付けを行っていたのだろう、
と、なんとなく想像できます。
あれから20年以上たちますが、
私自身、自分の存在意義について疑いを持った時、
(つまり「え、おれってこれくらいしか評価されてないの?」と思ったときです^^。)
条件反射のように20年以上前、先輩が言った「ヒカクユウイ」を思い出します。
その先輩とは、その後、一度も会ったこともなく、
名前すらもすっかり忘れてしまっているのですが、
不思議とこの20年以上、その言葉は私の心に住みついているのです。
「どんな人間もかけがえのない存在であり、オンリーワンだ」
ということを、情緒や励ましの言葉でなく、
「大人」の経済用語で語られ得る、
ということを知った若き日の貴重な思い出です。
~written by ♂counselor~
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